人材派遣M&Aの事例を読むときは、買い手の業種と買収対象の業種を分けて確認します。トライトによるHAB&Co.の買収は、医療・福祉分野の人材サービスとHRテックの連携を考える参考例です。対象を「医療・福祉人材派遣会社」と一括りにせず、取得した機能と目指した連携を整理します。
以下の案件概要は2021年7月21日の公式発表に基づきます。その後の売却準備・調査項目は、当該案件で実施された事実を示すものではなく、自社で検討するための一般的な観点です。当センターの仲介実績を紹介する記事ではありません。
公式発表で確認できる買収の概要
| 発表日 | 2021年7月21日 |
|---|---|
| 取得主体・方法 | トライトがHAB&Co.の全株式を取得したと発表。 |
| 買収対象 | HRテックを基盤とするサービスの開発・運営会社。求人作成・採用管理サービス「SHIRAHA」等を展開。 |
| 発表された方向性 | 地方展開、採用支援のデジタル化、医療・福祉施設と求職者をつなぐ仕組みづくり。 |
出典:トライト「大分発HRテック企業『HAB&Co.』の株式取得のお知らせ」。この発表から売却価格や統合後の収益成果を判断することはできません。
人材紹介・派遣とHRテックを分けて評価する
人材紹介、派遣、採用管理サービスは、売上が発生する条件と継続性の見方が異なります。自社で複数事業を営む場合は、会社全体の売上だけでなく、事業区分別の契約・収益・担当者を整理します。派遣スタッフの稼働人数とソフトウェア利用者数を混ぜても、引継ぎ後の収益は説明できません。
| 事業 | 収益の確認 | 継続性の確認 |
|---|---|---|
| 人材紹介 | 成約件数、手数料、返戻条件、入金 | 求人企業との契約、担当者の関係、採用後の対応 |
| 人材派遣 | 稼働人数・時間、派遣単価、賃金、粗利 | 派遣先契約、雇用・期間制限、採用と定着 |
| HRテック | 課金方式、契約単位の売上、更新・解約、開発・運営費 | 利用状況、顧客支援、開発体制、権利とシステム運用 |
上記は一般的な整理例です。対象企業の実際の料金体系や収益構成を表すものではありません。複数のサービスを同じ顧客へ提供する場合は、売上の重複計上や部門間の費用配賦にも注意して元帳・契約と照合します。
連携の構想を、確認できる条件に分解する
顧客と営業の連携
人材サービスの既存顧客に別サービスを提案できるかは、顧客の課題、契約条件、営業体制によって変わります。単純に両社の顧客数を足して売上増を見込まず、対象顧客、提案する機能、担当者、導入に必要な支援を整理します。
- 紹介・派遣・システム利用の契約主体と窓口を一覧にする。
- 施設・病院等の顧客との更新・解約・株主変更に関する条件を確認する。
- 顧客集中と担当者依存を分け、代替担当と引継ぎ資料を準備する。
開発と運用の連携
HRテックでは、サービスの画面や機能一覧だけでなく、保守・開発を継続できる体制を調べます。ソースコード等の権利、外部委託契約、クラウド費用、障害対応、顧客への支援を確認し、買収後に誰が判断するかを決めます。統合する機能と当面維持する機能を分けることも検討事項です。
登録者・応募者データの連携
登録者数や資格者数は、重複、更新時点、実際の稼働・応募状況を区別します。資格情報については確認方法と更新日を管理し、本人の勤務希望や連絡の可否を人数だけから推測しません。データを別サービスに使えるかは、従前の利用目的や取得経緯、契約、必要な手続きの確認が必要です。
企業買収や秘密保持契約の締結を理由に、登録者・応募者の情報を無制限に共有できるわけではありません。初期検討は集計情報を使い、詳細情報は目的・範囲・閲覧者・安全管理・交渉不成立時の扱いを決めます。事業承継に伴う個人情報の取扱いは、個人情報保護委員会「通則編」を確認します。
派遣事業を含むM&Aで確認する実務
以下は、読者の会社が人材派遣事業を含む場合の一般的な確認表です。HAB&Co.の事業内容や当該買収での調査結果を示す表ではありません。
| 確認領域 | 買い手が見るポイント | 売り手側の準備 |
|---|---|---|
| 収益 | 売上・粗利・単価・稼働率が継続するか | 派遣先別の月次推移と根拠資料を整える |
| 契約 | 基本契約・個別契約・抵触日が管理されているか | 契約書と請求・勤怠・台帳を照合する |
| 労務 | 労使協定方式、教育訓練、社会保険の運用 | 協定書、賃金テーブル、教育記録を整理する |
| 人材 | 登録者DB、稼働スタッフ、採用力、定着率 | DB項目、応募経路、休眠者対応をまとめる |
| PMI | 買収後も派遣先とスタッフが継続するか | 説明順序、担当者引き継ぎ、情報管理を計画する |
派遣・職業紹介・システム提供の事業区分ごとに許可と契約を確認します。株式譲渡で法人が継続する場合でも、役員・名称等の変更に伴う届出を確認します。事業譲渡等では譲受側の既存許可と事業所の新設等に応じ、必要な手続きを管轄労働局へ確認します。厚生労働省の業務取扱要領・第3が確認先です。
資料の整理と調査を分けて進める場合は、売却準備の資料と派遣業のDDチェックリストを参照してください。
この事例を自社と比較するときの質問
- 取得したい機能は、顧客基盤・人材供給・採用システムのどれか。
- 収益と契約を事業別に説明でき、共通費の負担も把握できているか。
- 営業担当、開発担当、顧客支援担当の引継ぎ計画があるか。
- データを連携する目的・必要範囲と、実施前の確認事項は何か。
- 見込む効果と実際に検証する指標を分け、未確認の数値を入れていないか。
自社の検討に進む前に
公開事例の仕組みをそのまま自社へ当てはめず、売却する範囲、残したい雇用・拠点、代表者の関与を整理します。初期相談は会社名や個人名を省いた集計情報から始め、詳細開示の範囲と順序を決めます。会社名の開示には売り手の事前同意と秘密保持契約を確認し、スタッフ情報の扱いは別途検討します。
当センターへ支払う売り手の仲介手数料は、相談料・着手金・中間金・月額報酬・成功報酬まで0円です。税金・登記費用・外部専門家費用等は別途発生する場合があります。料金と対象範囲をご確認ください。
公式資料の確認日:2026年9月13日。制度や個別の契約条件は、実際に取引する時点で確認してください。


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